数学A:場合の数と確率③確率

初めに

 本記事では、数Aで学ぶ範囲の確率をまとめる。場合の数と同様に公式を丸覚えするのではなく、きちんと理解することが重要になってきます。

確率

用語解説

試行と事象

試行の定義

 同じ条件のもとで何回も繰り返すことができ,どの結果が起こるかが偶然に決まるような実験や観察などを試行という。

事象の定義

 試行の結果として起こる事柄を事象という。

  • 試行:1個のさいころを1回ふる
  • 事象:1の目が出る

全事象と根元事象

全事象の定義

 1つの試行において、起こりうる結果全体を集合 \(U\) で表す.\(U\) で表される事象を全事象という。

根元事象の定義

 ある試行の全事象を \(U\) とする。このとき、この試行におけるどの事象も \(U\) の部分集合で表せる。\(U\) の1つの要素だけからなる集合で表される事象を根元事象という。

 1個のさいころを1回投げる試行において、起こりうる全体の結果は

1の目が出る、2の目が出る、\(\cdots\)、6の目が出る

これを \(U = \{1, 2, \cdots, 6\}\) と表す。この \(U\) が全事象である。また、このときの根元事象は

\[\{1\}, \{2\}, \{3\}, \{4\}, \{5\}, \{6\}\]

である。

同様に確からしい

同様に確からしいの定義

 ある試行において,どの根元事象が起こることも同程度に期待できるとき,これらの根元事象は同様に確からしいという。

 1個のさいころを1回投げる試行において、
\[
(1 \text{の目が出る確率}) = (2 \text{の目が出る確率}) = \cdots = (6 \text{の目が出る確率})
\]
であることが期待できるとき、根元事象は同様に確からしいといえる。

事象の確率

定義

 起こりうるすべての場合の数を \(N\)、事象 \(A\) の起こる場合の数を \(a\) とするとき、事象\(A\) の起こる確率 \(P(A)\) は以下の式で求められる。
\[
P(A) = \frac{a}{N}
\]

確率の性質

 確率の定義から次の3つの性質が成り立つ。

  • 任意の事象 \(A\) において、\(0 \leq P(A) \leq 1)
  • 決して起こらない事象の確率は \(0\)
  • 必ず起こる事象の確率は \(1\)
補足

 これは、確率の古典的な定義であり、根元事象が同様に確からしいという前提で定義されている。この定義では確率が求められない事象も存在する。

積事象・和事象

積事象の定義

 事象 \(A, B\) において、\(A\) と \(B\) がともに起こる事象を \(A\) と \(B\) の積事象といい、\(A \cap B\) と表す。

和事象の定義

 事象 \(A, B\) において、\(A\) または \(B\) が起こる事象を \(A\) と \(B\) の和事象といい、\(A \cup B\) と表す。

排反事象の確率

排反事象の定義

 2つの事象 \(A, B\) が同時に起こらないとき、事象 \(A\) と \(B\) は互いに排反である、または \(A\) と \(B\) は排反事象であるという。

排反事象の確率の性質

 事象 \(A\) と \(B\) が互いに排反であるとき、次が成り立つ。
\[
P(A \cup B) = P(A) + P(B)
\]

証明

 起こりうるすべての場合の数を \(N\)、事象 \(A\) が起こる場合の数を \(n(A)\) とする。このとき、
\[
P(A \cup B) = \frac{n(A \cup B)}{N} = \frac{n(A) + n(B) \ – \ n(A \cap B)}{N}
\]
となる。いま、事象 \(A\) と \(B\) は互いに排反なので \(n(A \cap B) = 0\) である。よって、
\[
P(A \cup B) = \frac{n(A) + n(B)}{N} = \frac{n(A)}{N} + \frac{n(B)}{N} = P(A) + P(B)
\]

余事象

余事象の定義

 事象 \(A\) に対して、\(A\) でない事象を \(\overline{A}\) で表し、\(A\) の余事象という。

余事象の確率の性質

 事象 \(A\) の余事象を \(\overline{A}\) において、次が成り立つ。
\[
P(\overline{A}) = 1 \ – \ P(A)
\]

証明

起こりうるすべての場合の数を \(N\)、事象 \(A\) が起こる場合の数を \(n(A)\) とすると
\[
P(\overline{A}) = \frac{N \ – \ n(A)}{N} = 1 \ – \ \frac{n(A)}{N} = 1 \ – \ P(A)
\]

独立な試行

独立な試行の定義

 2つの試行 \(S,T\) についてそれぞれの結果の起こり方が互いに影響を与えないとき、試行 \(S\) と \(T\) は独立 であるという.

独立な試行の性質

 2つの独立な試行 \(S, T\) について、\(S\) では事象 \(A\) が、\(T\) では事象 \(B\) が起こる確率は
\[
P(A) \times P(B)
\]
で与えられる。

反復試行

反復試行の定義

 同じ試行を何回か繰り返して行うとき、各回の試行は独立である。この一連の独立な試行をまとめて考えるとき、それを反復試行という。

反復試行の確率

 確率 \(p\) で成功するような試行を独立に \(n\) 回反復して行ったとき、\(n\) 回のうち \(k\) 回成功する確率は、
\[
{}_n C_k \ p^k \ (1 \ – \ p)^{n – k}
\]

期待値

期待値の定義

 ある試行があったとき、 その試行で得られると期待される値のことを期待値という。
 試行によって、得られる結果が \(x_1, x_2, \cdots, x_n\) であり、それぞれの起こる確率が \(p_1, p_2, \cdots, p_n\) であるとする。

結果\(x_1\)\(x_2\)\(\cdots\)\(x_n\)
確率\(p_2\)\(p_2\)\(\cdots\)\(p_n\)

このとき、期待値は次で求められる。
\[
x_1 p_1 + x_2 p_2 + \cdots + x_n p_n
\]

補足

 期待値は平均値の一般化である。

 例えば、1個のさいころを1回ふる試行において、出る目の期待値は
\[
1 \times \frac{1}{6} + 2 \times \frac{1}{6} + \cdots + 6 \times \frac{1}{6} = \frac{1}{6} (1 + 2 + \cdots + 6) = \frac{7}{2}
\]
であり、平均値の定義通りに計算したものと一致する。いままでの平均値の定義は根元事象が同様に確からしい場合の期待値であることが確認できる。

条件付き確率

条件付き確率の定義

 事象 \(A\) が起こったときに事象 \(B\) の起こる確率を事象 \(A\) が起こったときの事象 \(B\) の起こる条件付き確率といい、\(P_A (B)\) で表す.定義より条件付き確率は次で求められる。
\[
P_A (B) = \frac{n(A \cap B)}{n(A)} = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}
\]
ただし、\(n(A) \neq 0, P(A) \neq 0\) である。

確率の乗法定理

 事象 \(A, B\) において、条件付き確率の定義から次が成り立つ。
\[
P(A \cap B) = P(A) P_A (B)
\]
ただし、\(A = \phi\) のときは \(P(A \cap B) = 0\) とする。

事象の独立

 事象 \(A, B\) において、
\[
P_A (B) = P(B)
\]
が成り立つとき, 事象 \(B\) は事象 \(A\) に独立であるという。

 \(P(A) \neq 0, P(B) \neq 0\) のとき

\[\begin{align}
\text{事象} B \text{は事象} A \text{に独立である} \Leftrightarrow & P_A (B) = P(B) \\
\Leftrightarrow & \frac{P(A \cap B)}{P(A)} = P(B) \\
\Leftrightarrow & P(A \cap B) = P(A) P(B) \\
\Leftrightarrow & \frac{P(A \cap B)}{P(B)} = P(A) \\
\Leftrightarrow & P_B (A) = P(A) \\
\Leftrightarrow & \text{事象} A \text{は事象} B \text{に独立である}
\end{align}\]
が成り立つ. よって、

事象 \(A, B\) が互いに独立であることと \(P(A) \neq 0, P(B) \neq 0\) かつ \(P(A \cap B) = P(A) P(B)\) が成り立つことは同値である。

ベイズの定理

 事象 \(A, B\) において、\(P(B) \neq 0\) のとき、次が成り立つ。
\[
P_B (A) = \frac{P(A \cap B)}{P(B)} = \frac{P_A (B) P(A)}{P(B)}
\]

練習問題

基本問題

練習問題1

問題

 1から9までの数字を書いた9枚のカードの中から1枚引くとき, 次の確率を求めよ。
(1) 奇数のカードを引く確率
(2) 3の倍数のカードを引く確率

解答

(1) \(\frac{5}{9}\)
(2) \(\frac{3}{9} = \frac{1}{3}\)

解説

(1) 1, 3, 5, 7, 9 の5通り
(2) 3, 6, 9 の3通り

練習問題2

問題

 10本のくじのなかに当たりくじが3本ある。くじを3本同時に引くとき, 2本だけが当たりくじである確率を求めよ。

解答

\(\frac{{}_3 C_2 \times {}_7 C_1}{{}_{10} C_3} = \frac{3 \times 7}{120} = \frac{7}{40}\)

練習問題3

問題

 3枚の硬貨を同時に投げるとき, 少なくとも1枚は表が出る確率を求めよ。

解答

1枚も表が出ない確率は \(\left(\frac{1}{2} \right)^3 = \frac{1}{8}\) である。
よって、求める確率は \(1 – \frac{1}{8} = \frac{7}{8}\)

解説

 余事象の確率を用いている。

独立な試行の確率

練習問題4

問題

 1個のさいころを2回投げるとき、次の確率を求めよ。
(1) 2回とも偶数の目が出る確率
(2) 3の倍数の目が1回だけ出る確率

解答

(1) \(\left(\frac{3}{6} \right)^2 = \frac{1}{4}\)
(2) \({}_2 C_1 \cdot \frac{2}{6} \cdot \frac{4}{6} = 2 \cdot \frac{1}{3} \cdot \frac{2}{3} = \frac{4}{9}\)

解説

この2回の試行は独立である。
(1) 1回さいころをふり、出る目が偶数である確率は \(\frac{3}{6}\) であり、その試行を2回行っている。
(2) 3の倍数の目が1回だけ出るには、

  • 1回目の出る目が3の倍数 かつ 2回目の出る目が3の倍数以外
  • 1回目の出る目が3の倍数以外 かつ 2回目の出る目が3の倍数

ここから解答の式が得られる。

反復試行の確率

練習問題5

問題

 1個の4回投げるとき、次の確率を求めよ。
(1) 1の目がちょうど2回出る確率
(2) 1の目がちょうど3回出る確率

解答

(1) \({}_4 C_2 \left(\frac{1}{6} \right)^2 \left( \frac{5}{6} \right)^2 = \frac{25}{216}\)
(2) \({}_4 C_3 \left(\frac{1}{6} \right)^3 \left( \frac{5}{6} \right) = \frac{5}{324}\)

期待値

練習問題6

問題

 1個のさいころを投げるとき、1の目がでたら100円、2か3の目が出たら50円、それ以外の目が出たら10円もらえるとする。もらえる金額の期待値はいくらか。

解答
金額1005010
確率\(\frac{1}{6}\)\(\frac{2}{6}\)\(\frac{3}{6}\)

 よって、求める期待値は
\[
100 \times \frac{1}{6} + 50 \times \frac{2}{6} + 10 \times \frac{3}{6} = \frac{230}{6} = \frac{115}{3} (\text{円})
\]

条件付き確率

練習問題7

問題

 ある夫婦には子供が二人いる。二人のうち少なくとも一人は男の子ということが分かった。このとき,二人とも男の子である確率を求めよ。ただし,男の子が生まれる確率,女の子が生まれる確率はともに \(\frac{1}{2}\)とする。

解答

\(A\) : 少なくとも一人は男の子
\(B\) : 二人とも男の子
とする。
\[\begin{align}
& P(A) = 1 – \left(\frac{1}{2} \right)^2 = \frac{3}{4}
& P(A \cap B) = \left(\frac{1}{2} \right)^2 = \frac{1}{4}
\end{align}\]
である。よって、求める条件付き確率は
\[
P_A (B) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)} = \frac{\frac{1}{4}}{\frac{3}{4}} = \frac{1}{3}
\]

練習問題8

問題

 全人口のうち、0.1%がある病気にかかっているとする。

陽性陰性
ある病気に罹患している90%10%
ある病気に罹患していない20%80%

 このとき、陽性と判定されたが、実際には罹患していない場合の条件付き確率を求めよ。ただし、小数第5位を四捨五入せよ。

解答

\(A\) : ある病気に罹患していない
\(B\) : 陽性と判定される
とする。条件より \(P(A) = 1 \ – \ 0.001 = 0.999, P_A (B) = 0.2\) である。また、
\[\begin{align}
P(B) &= P(\overline{A} \cap B) + P(A \cap B) \\
&= P_{A} (B) P(A) + P_{\overline{A}} (B) P(\overline{A}) \\
&= 0.9 \times 0.001 + 0.2 \times 0.999 = 0.19998
\end{align}\]
である。
求める条件付き確率は
\[
P_B (A) = \frac{P_A (B) P(A)}{P(B)} = \frac{0.9 \times 0.001}{0.19998} = 0.0045
\]

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